グレゴリオの青い弦

 

「先輩、音合わせお願いします」

バイオリンを調弦する空間が好きだ。

音を確かめながらただ弓を引く、無表情な旋律が心地いい。

しかも、相手が長太郎だから、尚更。

長太郎がバイオリンを弾く姿はとても堪らなくセクシーで、その男らしいけど爪の整った長い指で鳴かされる私はピチカートで演奏されるバイオリンよりきっと幸せに違いない。

「先輩、」

彼の言う音階に合わせてピアノの鍵盤を叩いていると、すぐ後ろから声が掛る。

「肩に力、入ってますよ…?」

そう言って彼は弓を持ったまま右手の拳で私の肩の天辺を軽く小突いた。

外部からの刺激に肩は発熱して、そこからじんわりと浸透していく。

長太郎の姿に少し欲情して肩に力が入っていたのは確かで、彼に押されて少し軽くなった気がするものの、至近距離に萎縮して更に熱が追い討ちを掛けるから、息が苦しくなって躰全体が麻痺していくような…。

「……、」

恥ずかしさの余り何も言えないでいると、拳が開いて肩をやんわりと握り、屈んだ気配に身を震わせた瞬間、項に甘い痛みを感じる。

「先輩、…続き」

まだどこか幼さが残るのにその囁きは低く切なく、どうしようもなく、私は長太郎の袖を引っ張った。

 

(終)

 

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