今年よ、さようなら。

 

 

除夜の鐘を108回全て鳴らすのだと張り切ったSOS団長から、団員外の私にもお声が掛かった。

毎年テレビで見る、ゆく年くる年に面白味を感じられない年齢だし、我が家は年越しそばを早々に食べてしまう家だったので、面白半分で私は涼宮さんの誘いに二つ返事で乗った。

参拝に指定された神社は、北高の近くにあるそこそこ大きな社で初詣には多くの参拝客が来る。

寒いからとイヤーマフに手袋、ブーツと防寒に防寒してのこのこ出かけると、煩悩追い払い隊希望の列は長いものになっていた。

「ちょっとどこにいるの?!」

「ごめん、今、鳥居くぐった。鐘の方にいけばいいの?」

「そう。列のもうずーっと前の方に並んでるから急いで来て!」

携帯電話で涼宮さんに連絡を取り、言われた通りに流れに沿って進んで行くと、ピンクのふわふわしたイヤーマフを付けた朝比奈先輩が懸命に手を振ってくれた。

「やっときたわね、遅刻よ遅刻!団員だったら罰金ものよ!」

長蛇の列の比較的前の方に並んでいたSOS団と何とか合流することが出来ると、やはりちくりと涼宮さんに怒られる。

お詫びにと出掛けにダッフルコートのポケットに突っ込んできた蜜柑を皆に振舞った。

「なんで蜜柑なんだよ。そこはホット缶コーヒーとかだろ」

「キョンのくせに文句言わないの」

「いやなら食べなくていいのよ」

「寒空に蜜柑というのも、なかなか面白くていいですよ」

「ほら、せめて古泉君ぐらいの嫌味をいいなさい」

「とんでもありません」

「意味がわからん」

「え、長門さんもう食べちゃったんですかぁ」

「……」

「あ、有希ちゃん、皮もらう」

ポケットの底から丸めてきた白い毛糸の手袋を引っ張り出し、代わりにゴミとなった蜜柑の皮を回収しポケットの中に押し込む。

白の手袋は薄着の有希ちゃん用だ。案の定、彼女はこんなに寒い夜中でもジャケットを羽織るのみでマフラーすらつけていなかった。

ちょっと押し付けがましいかと思いながら手袋の形を整えると、手を入れる口の部分を両手で開いて有希ちゃんに向ける。

「有希ちゃん、手袋。持ってきたから」

「……」

「いらないとか言わないでよ、見てるこっちが寒くなっちゃうんだから」

「…わかった」

呟くように答えると手を差し出てくれる、その小さな白い手にそっと手袋を嵌めていると、列の前方がざわつき始めた。

「ああ、始まりましたね」

そう言って古泉君が微笑み、ぼおんと一つ目の煩悩が打ち消される音が境内に響いた。

古くて低い重みのあるその音は耳奥にゆっくりと静かに浸透してくる。

その余韻に合わせてか、早くも朝比奈先輩が小さく手を合わせて何かお願いごとをしていた。

煩悩を打ち消すだなんて誰も、少なくとも私達は誰も思っていないけれど、今だけは純粋に何も考えずに去り行く一年に思いを馳せる。

今年もそろそろ終わる。 

 

 

 

 

(終@081231)

お題「来年も一緒にいようよ」from Abandon様 

 

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