Sweet William


…、」


アメジストの妖精みたいな美しい人が薄く薄く息を吐いた。
私の下で、まさに、今。
いつも鋭く宇宙の暗闇を睨むルビーのような瞳は、少しその鋭さの面影を残してはいるものの、私を悔しそうに、そして切なそうに、何かを訴える視線を寄越している。
何が言いたいの、あなたは。
人間は、モノゴトをはっきり口にしないと伝わらないのですよ、分かってるはずでしょ。
薄く息を吐き続ける桜色の唇に人差し指を載せて、花びらを型どるように指先でなぞる。
唇がぴくりと動き、空気を吸い込むようにして開かれたので一瞬噛まれるかと咄嗟に手を引くと、そうではなかった。


、…君の、行為、は……ば、万死に…」
「値するんだ、そうなんだ。でもティエリア、その万死に値する行為であなた、すごく気持ち良さそうよ?」


耐え震える声音に気分が良くなり、目は細まって口角は上がる上がる、結果笑みは深く深くなる。
僅かばかりであるけど鍛えてる腹筋に力を入れると、身体の奥でまるで歓喜に舞い上がるように彼が反応したのがわかった。
絶世の美人も、理性より欲望に忠実なときがあるらしい。
菫色の柳眉が耐えるように歪むのも、もう私にはもっと苛めて欲しいと誘っているようにしか見えない。
私は目を細めて熱っぽい視線を絡ませると陶磁器のような白い肌の腹部に手を突いて、彼の上で自分の思うがままに彼を攻め立てる。


「こ、の、…いい加減に…ッ、」
「なぁに?待機中は好きにしていいって答えたのはティエリ、アッ」


悪戯っ子よろしく小首を傾げると均整の取れた腕が伸びてきて、しっかりと太股を掴んで力強く引き寄せられる。
まさか反撃を受けるとは思わず奥深く穿たれると今日初めての悲鳴がでた。
喉から素直に出たその音は真正直に快感を表していたのが、自分でも分かった。
そこからは互いに主導権の奪い合いのような攻防で、太股を握る手を引き剥がして無理矢理手を繋ぐ、私より少し無骨なぐらいの小さな手はしかし力任せに繋いだまま腰を抱こうとする、その輪から抜けようと腰を引こうと動かせば、組み敷いていた力関係が崩れて上半身が覆い被さってきそうだったので、全身の体重をかけてそれを押さえ込むと、彼と私の口から同時に甘い声が漏れた。
その声を合図に互いの息を吸うように唇を重ね、二人して抗議の言葉を封じ込む、そんな口付けを繰り返す。
瞼に触れる彼の恐ろしく長い睫がくすぐったい。
息切れて同時に唇を離すと互いの鼻先がくっつく距離に彼の美しい顔があった。
ゆっくりと瞼が開けば、その下から現れた深紅の双眸は濡れて揺れている。
漂っているのは、私の仕打ちにそう怒鳴らずに押さえ込んでいたと思われる怒りだ。
しかしその奥に、今まで見つめてきた宇宙の無数の煌きに負けない、この四年で積み上げてきたのだろう絶えることのない情熱がちかちかと見えた気がした。
美しい、あなたはなんて美しいの。


、君はいつまでこの戯言を続けるつもりだ」


ほんの先ほどまで互いを組み敷こうと慌てていたことなんて感じさせないほど、芯のぶれない声がうっとりと彼を見つめる私を刺す。
そうやって苛立ちですっと細められた眼に、この世界の行方は勿論だろうけれど、少しは私の姿は映っているのかしら。
あまりにも真っ直ぐな視線は不安にさせてくれる要素がいっぱい詰まっている。


「さぁ?ティエの顔が怖くなくなるまでかな」


だから、ちょっとだけ、その情熱を引き抜くぐらい許して欲しい。
いいでしょ、私の美しい人。

 

 

    (終@090306)

 

 

 

 

 

 

 

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