無秩序の空間に秩序をもたらすことは簡単ではない。
逆に、より無秩序を生み出すことは、とても簡単だ。それはとてもとても簡単だ。
好き勝手に壊せばいい。
組織から指定されたポイントに向かうと、そこは帰宅ラッシュでごった返した駅のホームだった。
前後左右行きか人達が迷惑そうな顔をするのも構わず流れを邪魔するように立って、人差し指をついっと持ち上げて閉鎖空間の入り口に触れる。
侵入するときはいつも気持ち悪くなる。指先から感覚が、自分でないものに蝕まれていく、それは私が神のためだけに作られた存在であるという証拠。
いつものよう意識が赤い光の弾に融けると、右足のつま先の意識でホームの床を鳴らしてそのカラダを浮遊させた。
空間を飛び回ることは実に容易に出来る。大きく息を吸って、大きくそれを吐き出すだけ。
あとは少し、カラダを捻ったり、首を傾げたりするだけで、私は自由自在に閉鎖空間を動き回ることができた。
そして同時に、神の分身を好きなように千切ることが出来た。
青く禍々しく光る巨人、あんな色をしているのに、なぜ「神の人」なのだ。
自分で処理ができず、他人にこんなに不幸せな、狂気に満ちた活動をさせるのに、なぜ神と呼ばれるのだ。
彼女は、神の人という名を模しただけの、ただの怪物。
私は、神の傲慢から世界を救う、素晴らしいHeroine。
紛い物の空間が崩れると、途端にたくさんの人が道を行き交う、どこかの大きな交差点。
信号が赤に変わるのが見えて、周りの人と合わせて足早に交差点を渡り切る。
その先に、古泉が酷く怖い顔をして立っていた。
でも古泉には残念だが、私がそれに怯えることも、怖がることもない。ありえない。
「あなたは無粋すぎる」
雑踏の喧騒の中でも古泉の声はよく耳に響いた。
仕事のあとは、いつも似たような文句を聞かされる。
彼はいつも不機嫌だ。
私が仕事に関わることを本当に嫌っている。
私が機関に属することを嫌がっていることを知っているがゆえに、破壊するだけの仕事なのに、いつもとても乱雑だと責める。
怪物を倒すのに、丁寧も雑もあったものか。
それでも、私は彼が怒る理由を知っているのだ。
「そう?でも破壊することが私達の仕事じゃない」
この遣り取りは何度目かしら。
いつでも私は同じことを答えるのみよ。
「だってそうしないと、あなたの好きな彼女のいる世界ですらなくなるのよ」
知ってるくせに。
わかってるくせに。
「しょうがないじゃない、あなたの大好きな神様が私にこの力をくれたんだから」
満面の笑顔でそう答えると、彼はその綺麗な顔を酷く歪めて歯軋りをする。
あまりにも醜いその表情に私の背筋はぞくぞくしていて、気分は絶好調に狂喜で溢れ出していた。
こうして、この世界のどこかで、古泉の閉鎖空間は生まれるのね。
そんなことを考えながら、古泉の腕を握った。
「お疲れ様、帰りましょ」
●
(終@090120)