おでんの話
「男テニって、おでんに似てるかも」
見るからに庶民的で安っぽいコンビニのおでんをつつきながらあいつは呟いた。
「あん?」
「だっておでんって色んな具をたくさん煮込むでしょ?でもどれも味が協調してる。んで、美味しい」
大根を綺麗に半分に割って旨そうに頬張る姿を訝しい視線で見遣る。それをこいつはどう捉えたのか、残り半分の大根を行儀悪く箸でぶすりと刺して、差し出した。
俺は無性に食べたかったが、色んなプライドの方が勝って断ってしまった。後悔。
「男テニって個性豊か過ぎだしライバル意識あり過ぎだけど、レギュラー争奪だ下克上だ何だかんだ言ってても結構仲イイじゃん?」
「そうか?」
目に見える程馴れ合ってるつもりはなかったが、こいつの前で無下に否定するのも面倒臭かったので止めた。
「あ、でも跡部はおでんのスープかもね」
「はあ?スープ?!」
こいつの例えに耳を疑い思いっきり眉間に皺を寄せ、信じられないというように睨む。
おでんのスープってあれだろ、コンビニで買うときには散々迷って選んだ具のあとに一番最後に適当に注がれる、要は汁だろ?!
俺様をそんな脇役のスープに例えるとは、お前、いい度胸じゃねぇか。
「バーカ。スープはね、具のバラバラをまとめて且つ、美味しいところがぎゅっと詰まってんの。スープがあるからおでんは美味しいんですよー」
「……お前、具よりスープが好きなんだろ」
「うん、大好きよ?」
そう言ってあいつは口の端を上げる、それはやけに挑戦的な笑み。
これは、とある冬の寒い日、まだ俺とあいつが互いの腹を探っている時の話。
(終)